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ショットガンの歌

その夜、翔と恵は二人でお母さんが帰ってくるのを待っていた。

お母さんはいつも19時には帰ってくる。でもその日は22時なっても帰ってこなかった。

「お母さん、帰ってこないね」
5歳の恵が言う。
「うん」
7歳の翔は内心不安でいっぱいだった。

こんな夜に、古いアパートで、小さな子どもが二人きりで。
翔は自分がお兄さんなんだから妹の恵を守らなきゃと思った。
お母さんはいつも「翔はお兄ちゃんなんだからしっかりしなさい。」と言っていた。
でも夜の闇はよからぬことばかりを考えさせる。

お母さんは死んじゃったんじゃないか。車に轢かれて、何かの事故で。あるいは何かの事件に巻き込まれたんじゃないか。
今にも電話が鳴って、「お母さんは事故でお亡くなりになりました」と言われるんじゃないか。
そうなったら僕達二人はどうなるんだろう。二人で生きていかなきゃいけないのか。まだ小学二年生なのに働かなきゃいけないのか。僕がお兄さんだから僕がしっかりしないと。
それともおじいちゃん家に引き取られるのかな。でも嫌だな、田舎に引っ越さないとダメなのか。そしたら学校の友達とも会えなくなるし。それは嫌だから、そうなったら二人で自立してみせると言おう。大丈夫きっとできるさ。
なんでこんなこと考えてるんだろう。なんでお母さんは帰ってこないのだろう。なんで電話も何もないのだろう。

夜の静けさは翔を不安にさせていた。

不安を紛らわそうと、テレビをつけてみた。しかし、バラエティ番組から流れる笑い声は部屋の静けさに無機質に響いて、翔の心をさらに空虚なものにした。
チャンネルを変えると、男が女の背後から近づいて灰皿で殴ろうとしている場面だった。灰皿が振り下ろされる直前に、翔はあわててテレビを消した。

部屋はまた静かになった。その静寂はさらに深く、翔の不安もさらに大きくなった。

時計の音がチッチッチッ、と鳴っている。もう23時だった。
翔も恵もとっくに寝ている時間だったが、とても眠れなかった。
普段は仲良く話をする兄妹なのだが、この夜は二人ともほとんど何も話さなかった。
二人でいる静けさは空気をよりいっそう重くした。

ぱーん

そのとき、外のどこか遠くで乾いた音が鳴った。夜の静けさが一瞬、破れた。

「今の何の音?銃声?」
恵が言う。
「そんなわけないだろう」
翔はなにか得体の知れない不安を感じていた。

まさかお母さんが撃たれたんじゃないか。
そんなわけない、そんなわけない、と思うけれども。
日本に銃なんてあるわけないし、ましてやこんな近所で、しかもお母さんが撃たれるなんて、撃たれる理由もないし、そんなわけない、そんなわけない。

部屋は再びひっそりと静まり返った。
その静寂の中で、翔の頭の中ではよからぬ考えばかりがまわっている。

するとドアの向こうから足音が聞こえてきた。
木造のアパートの廊下を歩く、ぎしぎしという音。
「お母さんかな?」
恵は瞳を輝かせてそう言うとドアの方へ走っていった。
翔もそれまでの不安が急にどこかへ消えて恵に走ってついていった。
お母さんが帰ってきた!
翔はそれまでの不安が消えて、安心感とうれしさとともにドアを開けた。

するとそこには男が立っていた。
長髪でひげを生やした長身の男。
その顔に表情はなく、その手にはショットガンが握られていた。

「お前らのお母さんを殺したのは俺だ」
ぱーん

男は言うと、ショットガンを口にくわえ撃った。

真っ赤な血と肉片が大量に飛び散った。


「うあああああああああ!!」
翔は狂ったように叫んだ。
「くそ、殺してやる!」
翔はショットガンを男に向けた。
「翔、それもう死んでるよ」
「うう、、」
翔は恵をにらんだ。
翔は少し考えて、言った。
「恵、どうする?母さんを殺したやつをこのショットガンで殺すか、二人で死ぬか」
恵はとても冷静に言った。
「翔、だからそれはもう死んでるって」

「うあああああ!死んでやる!!」
翔はショットガンを自分の額に当てた。
ぱーん

恵がとっさに体当たりしたので、翔が撃った弾は天井をぶち破った。
天井をぶち破った弾はベッドをぶち破り、その上の女とそのまた上の男の腹をぶち破った。

「翔の馬鹿!」
恵は翔の手からショットガンを奪って遠くへ投げた。
翔は恵をにらんで言った。
「だって母さんが殺されたんだぞ!」
ぱん
恵は翔の頬をビンタした。
「翔の馬鹿!何でそんなこと言うのよ!」
ぱんぱんぱん
恵は翔をさらにビンタした。

「翔はお母さんが殺されたとこ見たの?お母さんが死んでるとこ見たの?」
翔は目を丸くしていた。
「それの言うことまんまと信じちゃって、そんなの嘘っぱちよ!」
恵は靴をはいて歩いていった。
「私、お母さんを探してくる」
翔は一瞬ぼーっとしていたが、急いで恵のあとについていった。
恵の後ろ姿がそのときとても大人に見えた。

まだ5歳なのになんでこんなに冷静なんだろう。
それに比べて俺はなんて子どもなんだ。
「翔はお兄ちゃんなんだからしっかりしなさい。」
お母さんの声が思い出された。

翔は恵の横に並ぶと、手をつないだ。
恵は思った。
しょうがないお兄ちゃんだなあ。。
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テーマ : 連載小説
ジャンル : 小説・文学

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うわぁ、ショットガンの男、なんかコワイです。
結局、お母さんは…。
恵がいれば大丈夫か。

つづくのかどうかが心配です。。

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54notall

Author:54notall
横浜国立大学マルチメディア文化課程。
爆笑問題太田さん、ダウンタウン松本さん、B'z稲葉さん、ラルクHYDEさん、椎名林檎さん、マイクル・クライトン、、に強く影響を受けています。
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