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先鋭アートの作者になりたくて

暗くてジメジメした腐敗臭の漂う部屋で、つとむは身動きとれずにいた。
重い手かせ足かせ。

「よォ、つとむ元気かァ」
中本の蹴りが飛んでくる。つとむの腹を強烈な一撃が襲い、血ヘドを吐く。
中本の蹴りと重なるように、大原、梅里の蹴りが飛んでくる。袋叩きだ。
ゴミ捨て場に転がったサンドバックを相手にしているかのように中本、大原、梅里の三人は蹴る。蹴りまくる。一度喰らいついたら放さない猛犬のように、もう夢中だ。

サンドバックは砂ではなく、真っ赤な血を吐き出した。
床にこびりついた真っ黒な血の上に新たな赤い血が塗り重ねられる。
それはまるで先鋭アートのようだ。と、つとむは思った。
だとすれば作者は誰だろう。
血を吐き出しているつとむか。それとも血を吐き出させている中本たちか。
絵の作者は絵の具ではなく絵の具を搾り出している人のほうだから、この先鋭アートの作者は中本たちなんだろう。
中本たちは暴力集団ではなく、芸術集団なんだ。はは、それにしても、僕は絵の具なんだ。

絵の具の顔面に向かって強烈な蹴りが飛んできた。
目の前に向かってくる足を見てつとむは思った。
もう嫌だよ。
すると声がした。
「じゃあ助けてあげる。」
それはつとむがいつも想像していた「女神」の声だった。女神は絶望の淵にいる人を助けてくれるんだ。
つとむは、ついに幻聴まで聞こえてくるようになったのか、と思った。
目の前が真っ白になった。

目を開けると、中本、大原、梅里の三人は消えていた。
手かせ足かせも消えていた。
「あれ、もしかして本物の女神、、?」
「私という存在に本物も偽物もありません。」
女神の声がした。姿は見えないけれど。
「もうあなたは自由です。好きなことをやりなさい。」
そう言い残して、女神の声は消えた。

つとむは自由を感じた。生まれて初めて感じる自由。
好きなことをやっていい。何をやってもいいんだ。
今までずっとやりたかったこと。

つとむはナイフで胸を突き刺した。

床の上にまた真新しい血が広がった。
作者はつとむだった。。
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テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

ハチミツとフレーバー

男は車の中でたばこに火をつけた。
ワイルドセブンに命がともる。
「メラ!」と言って、男はたばこを一息吸った。
ワイルドセブンの先端が赤く燃える。
男は煙を吐き出す。
「メラゾーマ!」と言って、今度はたばこを大きく吸った。
ワイルドセブンの先端が勢いよく燃える。
男は勢いよく煙を吐き出して笑った。

助手席には100万円の束が5つあった。
男が先ほど銀行から強盗してきた金だ。
札束を見ながら男は考えた。
この金で何を買おうか。
うまい飯でも食おうか、どこか旅行にでも行こうか、新しい車を買おうか、、
待てよ、銀行の金ってのは通し番号がついてて、使ったらバレちまうんじゃないか、、
男はそう思って、札束を窓の外に投げてしまった。
高速道路を走る高速の車から投げられた500万円は高速で飛んでいった。

ふぅ~~~、、
たばこの最後の一息を吐いて、男は思った。
くそ、もったいないことしたな。せっかく盗んだんだから、たばこの一箱でも買っておくんだった。
さっき吸い終えたのはワイルドセブンの最後の一本だった。
男の車は急にUターンして、高速道路を逆走しはじめた。
男の頭は再び銀行に向かっていた。

中年の銀行員は思った。
銀行強盗に大金を渡したというのに、なんで誰も気づかないんだ。
いや、みんな気づいているのに、気づいていないふりをしているだけなんじゃないか
銀行強盗なんてものに関わりたくないだけなんじゃないか。

その中年銀行員のもとに、白衣を着て分厚い眼鏡をかけた老人がやってきた。
「わしもお金ほしいな~。いやね、みてたんですよ。さっきの強盗。警察に通報しちゃおうかな~。」
このじいさん、さっきからジロジロこっちを見ていたが、やっぱりそういうつもりだったのか。
「いくら欲しいんです?」
「400万円くらいほしいな~」
「じゃあ200万円ですね」
「なんでじゃ、ケチくさい」
「いいんですよ、欲しくないならゼロです。」
「わかったよ、今回は200万ということで、、」
「ずっと200万ですよ」
「はいはいそうかいそうかい、、」
そう言って、老人は帰っていった。
もう二度とこの銀行に来ることはないだろう。
監視カメラを気にしていた様子だったから。

監視カメラに映ったら身元が完全に知られてしまうとでも思っているのだろうか。
監視カメラでわかることなんて、せいぜい性別と体格くらいなものだ。
全国に同じ性別似たような体格の人間がどれだけいるというのか。
服装で犯人が特定できることもあまりない。
銀行強盗なんてみんな似たような服装をしてくるものだ。
一度、"勝負服"で強盗しに来た男がいて、監視カメラの映像を見て、知り合いの勝負服だという通報で捕まった犯人がいたが、馬鹿な男だ。
しかし、みんなと同じ格好に嫌悪感を抱き、自分が思うままの格好で犯行に及ぶその態度には好感をもった。
なんでそういう"いいやつ"が損する社会なのだろうか。
嫌な社会だ。

中年銀行員がそんなことを考えていると、さっき500万円を奪っていった銀行強盗の男が入ってきた。
全身黒づくめの、典型的な格好。
今度は若い銀行員のもとへ歩いていった。
「金を出せ」とでも言っているのだろう、しかし若い銀行員は動じない様子。
正義感に満ち満ちているという感じだ。

ブーン、ブーン、ブーン、、
中年銀行員の不安は当たった。
警報が鳴り出した。
若い銀行員がスイッチを押したのだ。

金なんて渡してしまえばいいのに、中年銀行員は思った。
銀行に大金を預けている連中はたいてい金を使い切る前に死んでしまうんだ。
だから銀行には余るほどに金があるんだ。
その一方で、金がなくて困っている人々もいる。
そういう人々はときに銀行強盗などという危ない橋を渡る。
そうまでしないといけないほど金に困っているのだ。
金が余っているのだから、渡せばいいじゃないか。
金を渡したところで、誰も困りはしないのだから。
なのに、若い銀行員はヘタな正義感のために警報を鳴らしてしまった。
しかしこれは銀行強盗の男のミスでもある。
銀行強盗に入ったら、若い銀行員ではなくベテランの銀行員と交渉しなければならないのだ。

バーン!
強烈な爆発音とともに、若い銀行員の頭が吹っ飛んだ。
強盗の男はグレネードランチャーをもっていた。
中年の銀行員は、長いこと銀行員をやってきたが、グレネードランチャーを見るのは初めてだった。
これはしょうがない。
人を殺してしまったのだから、死刑モノだ。
中年の銀行員はスイッチを押した。

すると、銀行のあらゆるところからライフル銃が出てきて強盗の男を四方八方から撃った。
パンパンパンパンパン、、、、、、、、、、
男は文字通り"蜂の巣"になった。
真っ赤なハチミツが流れた。
男はヘビースモーカーだったのだろう。
男の肺からはたばこの煙が出てきた。
ハチミツとフレーバー。
そんな漫画があったような気がする。
ヘビースモーカーの中年男性に恋してしまう女子中学生の話。

ブーンブーンブーン、、
警報はまだ鳴り続けている。。

テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

沈黙

夜の闇の中で、三人の少年が座っていた。

少年は黙っている。他の二人も黙っている。
もう随分とこうしているような気がする。
少年は他の二人と目を合わせようとはしない。
沈黙が三人を包み込んでいる。

きっかけは何だったか、些細なことだったはずで、覚えていない。
ほんの小さなすれ違いが、三人の少年の間に大きな亀裂を生んだ。

ごめんなさい、と素直に謝ればよかった。
早い段階で謝っていれば、傷はこんなに深くはならなかったはずだ。
もう遅かった。

また、時間が流れた。
夜の闇はますます深くなっていった。
この闇はどこまで深くなっていくのだろう。

「ごめん、、」
やっと、少年はつぶやいた。
「本当にごめん!」
二度目は感情が破裂したみたいに大きな声が出た。

そんな少年を、真っ白な目が睨んでいた。
首と胸を真っ赤に染めた二人の少年の真っ白な目が、少年を睨みつけていた。
少年は二人の少年の視線を受け止めることができなかった。
再び、沈黙。

「今頃謝っても、もう遅いよな、、」
少年は、血で真っ赤に染まったナイフを睨みつけた。

雨が降り出した。
真っ暗な空から、強くて重たい雨が。
沈黙が、破られた。。


――――老人は「沈黙のナイフ」についてそのように説明してくれた。
それと付け足すように、「沈黙のナイフ」を使うと敵モンスターが「沈黙」状態になる、と説明した。
老人がどうやって「沈黙のナイフ」を手に入れたのか、それはわからない。
もしかすると、この老人は、その「少年」なんじゃないか。
僕はなんとなく、そう思った。

「沈黙してはいかんのじゃ。沈黙は心に闇をもたらす。
言葉は黒い文字じゃ。
言葉を胸に溜め込んでは、心が言葉で埋め尽くされて暗く黒くなってしまう。
だから思った言葉は、たとえどんなものであれ、声に出さなければならんのじゃ。」
老人は続けた。
まるで胸の中の闇を吐き出すかのように。

老人はこうやって、自分の罪を誰かに語ることによって、心が闇に染まるのを免れているのではないか。

老人の話はまだまだ終わりそうもない。
僕は早速「沈黙のナイフ」を使ってみた。。

テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

朝露に光る希望

空に向かって突き立っている無数のミサイル。
それはまるで針千本、地獄の光景。
だけど朝露に光る光景は希望の象徴にも見える。
キム・チは早朝のミサイルの眺めが一番好きだ。

今日も朝の希望を眺めていた、そのとき

シューン!シューン!シューン!、、、

キム・チは我が目を疑った。
ミサイルが七本、矢のように飛んでいった。

キム・チは官邸にすっ飛んでいった。
「キム・ジ総督!どういうことですか!?ミサイルが発射されましたが!」
「ははは、キレイなもんだろう?美しい放物線、、ヒッ、、」
(よっぱらってる、、?)
キム・チは総督の隣にいるキム・テを見やった。
「キム・テ、お前がいながら何故こうなった?」
「まあ、しょうがないってことだな」
(キム・テ、軍司令官、こいつがこの国を悪い方向へ進ませているんだ。
ミサイル発射なんて、、いったい何を考えているんだ?)

――――はるか遠く上方に光が見えてきた。
太陽を取り戻すのだ!

かつて地上を支配していた最初の人類。
あとからやってきた第二人類に滅ぼされかけ、地下に逃げ込んだ“地底人”。
地底人は長い間地下で軍力を蓄え、ついに地上へと一斉攻撃に向かおうとしていた。
まず第一波として、最新最強の戦艦「ハデス」が海上に姿を現そうとしていた。

そのとき、、
シューン!シューン!シューン!、、、
空気を切り裂く音が聞こえたか聞こえないかの刹那、、
ドン!ドン!ドン!、、、
ハデスを強烈な衝撃が襲い、外装は損傷し、大量の水が流れ込み、
まもなく海上というところで、戦艦は再び来た道を引き返した。
光を失って、、

地底王はハデスからの通信ですべてを知った。
「なんということだ、、我々の最強の戦艦が一瞬にして、、
地上人はそんなにも技術が発達しているのか、、」

地底人には地球のマントルをエネルギー源とした強力な兵器があった。
マントル兵器が使われれば、地上の文明はあっという間に滅ぼされただろう。
しかし、地底人はこのとき以降二度と地上を侵略しようなどとは考えなくなった。

そんなことなどつゆ知らず、キム・ジは国際社会から非難を受け、国の財政はさらに厳しくなりそうだ。
キム・チはあいかわらず、朝露に光る希望を眺めている。。

テーマ : 短編小説
ジャンル : 小説・文学

ヴァンパイアとの契約

ぷ~ん、、
耳もとで鳴るカン高い羽音。
やつはわざと耳をかすめるようにして飛ぶんだ。
その音を聞くと僕の心拍数はあがり、血液は速く流れる。
血管が浮き出してくる。
やつはそれを狙ってる。

夏、それは蚊との戦争だ。
やるかやられるかの戦い。
僕は毎年負けてきたんだ。
あいつらは多すぎる。
一対多じゃ勝てるはずもない。

ある日、目の前を飛ぶ蚊を見て思った。
こいつはこんなに小さいじゃないか。
こいつが吸う血の量なんてほんの微量じゃないか。
蚊を数匹養うなんて造作もないことじゃないか。

かゆくなるのが嫌なだけなんだ。
血をほんの少し採られるくらいなんてことない。
僕は自分の血を小皿に数滴垂らして部屋の隅に置いた。
血管から吸うんじゃなく、この小皿から血を吸ってくれ。
そうすれば僕は君たちを殺さない。

戦争ではなく対話、殺し合いではなく共存だ。

まもなく彼らは小皿から血を吸うようになった。
僕の耳もとをかすめることもなく、
朝起きたらかゆいなんてこともなくなった。
毎日血を流すのはめんどくさいけれど、
かゆいのを我慢したり、蚊を追いかけまわすよりも楽だった。

僕達は共存しているんだ。

ある日、小皿の血を吸っている蚊をみて思った。
なんか、かわいい。
なんと、僕は蚊に愛着を感じてしまった。
僕の部屋に集まる蚊はどんどん増えて、十匹ほどになっていたが、
その中の一匹は、他の蚊が黒に白の縞模様なのに対し、黒に赤の縞模様で、かっこよかった。
僕はその黒と赤の縞模様の一匹を「ヴァンパイア」と名づけた。

ヴァンパイアは毎朝6時に血を吸うようだった。
朝日を浴びながらの吸血、って全然「ヴァンパイア」じゃないじゃん。
僕は毎朝、小皿の血を吸っているヴァンパイアに「ヴァンパイアおはよう!」というのだった。
ヴァンパイアは僕のことなどまったく気にしていないようだったけど。

ある朝、起きると腕に違和感があった。
見ると、蚊が僕の腕から血を吸っている。
信じられない!契約違反だ!
僕は勢いよくその蚊を叩き潰した。
真っ赤な血が飛び散った。
それはもともと僕の血なんだけど。
よく見ると、そいつはヴァンパイアだった。
黒に赤の縞模様、よりによってこいつが、、
僕は余計にがっかりした。

その日学校に行くと、みんな休みだった。
生徒だけじゃなく先生も誰もいなかった。
仕方なく僕は家へと引き返した。
帰り道、誰も外を歩いていなかった。
家に帰るとテレビをつけた。
すると、ニュースの緊急特番をやっていた。
謎のウイルスが流行して、多くの人が病院へ運ばれているという。
特殊な免疫力を持った人以外は感染して重い症状が出るという。
病院ではウイルスの免疫力をもった人の血液を採取してワクチンを作り、患者に投与しているという。

あれ、もしかして僕がウイルスにやられていないのは、特殊な免疫力をもっているから、、
いや違う!
特殊な免疫力をもった人の血液が投与されたからだ!
ヴァンパイア!!
僕は叫んだ。
ヴァンパイアは僕の命を救うために、僕の血管にワクチンを流し込んでいたんだ。
そうとも知らずに僕は叩き潰してしまった。

急に、腕がかゆくなった。。

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

動かない都会

「2007年、東京が滅びる」
そんな予言がテレビや雑誌などを賑わせていた。
9.11テロ事件や大型台風カトリーナなどを予言したというイタリアの少女が東京滅亡を予言しているという。

しかし、その2007年になっても東京の人々は逃げ出そうとはしなかった。
普段と変わらずに東京で生活している。
予言なんて信じられない、仕事があるから、などという。
1999年のノストラダムスの予言は見事にはずれたから、当然の反応といえる。
予言などという非科学的なものでは動じない東京。

しかし、その日はやってきた。
2007年7月17日13時頃、、
直径100メートルほどの隕石のようなものが東京上空に出現した。
その隕石は世界中のあらゆる観測所からも発見されずに、突如として現れた。
ほぼ球体で岩のような質感で、灰色をしているが緑色に発光し点滅していた。
緑色の点滅がまるで時を刻んでいるように見えたので、この隕石は「クロノス」と名づけられた。
クロノスは非常にゆっくりと降りてきた。隕石の落下とは思えないくらいゆっくりと。
人々はクロノスを見上げた。
クロノスが近づくにつれて、東京に変化が表れた。
あらゆる物体が、クロノスの点滅と同期するかのように緑色に点滅しだしたのだ。
ビルも車もアスファルトも人も、建物の中でも書類も電子機器も机もロッカーもなにもかもが緑色に点滅した。
クロノスと東京は完全に同期しているように緑色に点滅していた。
そしてゆっくりと、東京タワーに突き刺さった。
東京タワーの3分の1くらい突き刺さって、クロノスは止まった。
緑色の点滅も止まった。
東京の点滅も止まった。
東京の時間が止まった。
すべてが灰色になって、すべてが動かなくなった。

たとえば2122年の人々は東京を「動かない都会」と呼んでいる。
まるで時間が止まったかのように、あらゆる物が止まっているのだ。
人々の姿勢や表情は固定されているし、空中に浮いたままのボールなどもある。
また、色は失われていて、あらゆる物が灰色になっている。

物理学者は「動かない都会」を科学的に説明できないという。
物質の時間が止まるなんてことが起こりうるだろうか。
たとえば、光速で移動する物体の時間は止まると言われているが、物体が光速で移動するのは不可能だ。
時間が止まるなんてありえない。
しかし東京は止まっている。
東京タワーに突き刺さっている隕石が原因だと誰もが思っているが、隕石の成分を分析するのは不可能だといわれている。
いろんな科学者が隕石の破片を回収しようと試みたが、隕石はとても硬く、「時間が止まって」いるので回収できないのだ。

誰も「動かない都会」を説明できない。
「動かない都会」には東京タワーを見上げる人々もたくさんいたが、そんなものには目もくれずに黙々と働いている人々もたくさんいたという。
自分の時間が止まってしまうことも知らずに働いているそんな姿を見ると、込み上げてくるものがある。。

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

空気みたいなやつ

「空気みたいなやつ」そう言われた。
目の前でさんざん悪口を言われた挙句、
「あ、そんなとこにいたんだ、気づかなかった」と言われた。
「空気みたいなやつだな」
そういう意味だ。

するとひとりの女の子が、
「でも空気はなくちゃならない存在よね」と言った。
そんなこと言わなくてもいいのに。
空気がなくなったみたいにシーンとなっちゃったじゃないか。
僕はそんな優しいこと言われると泣きそうになるんだ。
僕は悪口を言われるのに慣れてるんだ。
だけど、優しい言葉をかけられるのには慣れてないんだ。
だから泣きそうになるんだ。
その女の子はなんにもわかってないんだ。

そのあと、その女の子と二人っきりになった。
女の子は僕に腕を見せた。
そこには手首を切った痛々しい傷あとがあった。
「私、前の学校でいじめられてて、それで自殺しようとしたことがあったの。
でも、あとですごく後悔したんだ。
お母さんもお父さんもすごく泣いて、心配してくれて。
ああ、こんな私でも愛してくれてる人がいるんだ、と思って。
こんな醜い傷も残っちゃうしね。
だから、どんなにひどいことがあっても、死のうなんて思わないでね。」
そんなこと言わなくてもいいのに。
僕は死のうなんて思ったことないのに。
本当に、なんにもわかってないんだ。

その夜、僕は生まれて初めて手首を切った。。

テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

動かない時計

「時計、ちょっとそれとって」

言ってみたけど時計は動かない。

わかってたけど。

時計はいつも動かないんだ。

時計は時計を見ることなく時間を正確に言い当てることができるという特殊な能力をもっているから(いわゆるサヴァン)、時計というあだ名で呼ばれている。(本当の名前は忘れた)

一度時計に聞いてみたことがある。

「お前、何で動こうとしないんだよ」

すると時計は言った。

「時間を数えているからさ」

「そんなのどうでもいいだろ!」

「だって、僕が時間を数えていないとこの世界の時間は止まってしまうんだよ!地球の回転が止まって太陽と月の回転も止まって、人間の頭の回転も止まって、この世界のあらゆる回転が止まってしまうんだよ!」

「なんだよ!お前は神様かよ!お前がこの世界を動かしてるのかよ!お前が時間を数えなくてもこの世界は回るんだよ!」

「そんなことないもん!なんでそんなこと言うんだよ!馬鹿――――!!」

そう叫ぶと、時計は時間を数えるのをやめてしまった。

時計は本当に止まってしまった。

ぴくりとも動かなくなってしまった。

時間を数えるというのが唯一の時計の生きている証だったのに、それをやめてしまった時計は本当に動かなくなってしまったのだ。

彼の世界は止まってしまった。彼の地球の回転は止まり、彼の太陽と月の回転も止まり、彼の頭の回転も止まり、彼の世界のあらゆる回転が止まってしまった。

全部、時計の言う通りだったんだ。

時計が時計の世界を動かしていたんだ。

動かない時計を見ながら僕は申し訳ないことをしたと思った。。

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

自分探しの旅

私はちょっと前まで同棲していた。

しかし彼は突然出て行くと言い出した。

「自分探しの旅に出るんだ」

私の頭の中に「自分探しの旅」という言葉が反響した。

「自分探しの旅?何を言っているんだい?君はそこにいるじゃないか?自分を探すなんて、何を馬鹿なことを、、」

「違うんだ、『本当の自分』を探すんだ」

「本当の自分?」

「世界には自分とそっくりな人間が三人いるんだ。僕はその人と会って話してみて、三人のうち誰が本当の自分なのか確かめたいんだ」

その言葉を聞いて私は合点して、彼を見送った。

しかし彼を見送ってから私は思った。

自分とそっくりな人間ということは、見た目が似ているというだけで赤の他人じゃないか!

DNAの構造は4種類の塩基の組み合わせからできていて、その組み合わせは無数にあるがしかし有限だ。
世界に60億人も人間がいれば、DNA配列が似通って、自分とそっくりな人間が3人くらいいてもおかしくはない。

しかしいくらDNA配列が似ているといっても、あるいはまったく同じDNA配列だったとしても、それぞれ別の人間である。
同じ人間ではない。
その中の誰が「本当の自分」か確かめるなんて、、

3人ともそれぞれが「本当の自分」じゃないか!

そう気づいた私は急いで彼を探しに行った。

「彼」というのは私の中の「もう一人の自分」だった。

つまり、結局今私は「自分探しの旅」をしているのである。。


ところで、私がもう一人の自分を発見したとしよう、

しかし、その人が本当に私が探していた「もう一人の自分」なのか、
あるいは、世界に三人いるという自分そっくりの人間なのか、

確かめる術はあるのだろうか?

「本当の自分」は三人のうち誰なのだろうか。。

テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

54notall

Author:54notall
横浜国立大学マルチメディア文化課程。
爆笑問題太田さん、ダウンタウン松本さん、B'z稲葉さん、ラルクHYDEさん、椎名林檎さん、マイクル・クライトン、、に強く影響を受けています。
メインブログ54のパラレルワールド

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