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真っ赤な花

「クリスマスは稼ぎ時だなあ、、」
おなじみの赤い服を着た男はつぶやいた。そして声を張り上げる。
「メリークリスマス!クリスマスプレゼントはトイワールドで!!」
クリスマス前日、おもちゃ屋さんは賑わう。
お母さんは子どもに「クリスマスプレゼント、何がほしい?」などと聞いている。
おなじみの赤い服の男は笑みを浮かべる。

そこへ一人の中年の男がやってきた。
「あなたは本物のサンタクロースですか?」
「え?」
相手が子どもなら「もちろん私がサンタクロースだよ」と答えるところだが、相手が中年男とみると躊躇した。だが、この男の目、マジである。
「ああ、私はサンタクロースだよ、、」
「嘘つくんじゃねえよ!!」
中年男はいきなり背後に隠してあった金属バットで赤い服の男をメッタ打ちにした。
「サンタがなんでプレゼント売ってんだよ、バカ野郎が!」

中年男は街中の“偽サンタ”を撲殺していった。使命を感じていた。
偽者のサンタが多くなったから本物のサンタがやってこなくなったんだろうが!
それが男の言い分。偽者サンタを撲滅することによって本物サンタを迎えようというのだ。
しかし彼は間違っていた。

あのトイワールドのサンタクロースは本物だったのだ。
サンタクロースは昔、たしかに子どもたちにプレゼントを渡していた。無償で。
しかし現在ではいくぶん事情が違っている。
昔は宗教が世界を支配していたが、今は資本主義の時代である。
慈善だけではサンタも生きていけなくなったのだ。
資本主義サンタは自然、金儲けに向かうようになっていった。
トイワールドの売り上げはおもちゃ業界で世界一位を誇るようになった。
おかげでサンタクロースは世界中の子どもたちにプレゼントを行き渡らせることができるようになったのである。

みなさま、トイワールドのサンタクロースこそ本物のサンタクロースなのです!!

名も知らぬ中年男よ、メリークリスマス!
銃声一発。
白い雪に真っ赤な花が咲いた。。
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いらない贈り物

12月22日。もうすぐクリスマスだ。
だけど僕はサンタさんを信じていない。
来るはずないんだ。

まだクリスマスにもなっていないのに街のあちらこちらに現れるサンタクロース。
あいつらはみんな偽者だ。
トナカイなんて着ぐるみじゃないか。バレバレなんだよ。

こんな真夏にあんな暑苦しい格好しちゃってさ。馬鹿みたい。

そうそう、オーストラリアのクリスマスは真夏なんだ。
クリスマスのイメージって冬なのにさ、現実は真夏なんだ。頭がおかしくなっちゃう。
本物のサンタさんだって、あんな暑い格好してるんだから、こんな真夏の南半球までプレゼント届けてくれるわけないよ。

だから僕はサンタさんを信じていない。
来るはずないんだ。
信用していないんだ。

北半球の子どもたちばかりにプレゼント配っちゃってさ、ずるいよ。
半そで着て南半球に来てくれたっていいじゃないか。
なんであんな格好にこだわるんだよ。馬鹿。

今年で僕は14歳。え、もっと年下に見えるって?
ちっちゃいからってなめんなよ。
来年15歳になるから、今年が最後のチャンスなんだ。
サンタにプレゼントもらえる最後のチャンス。
だって子どもしかもらえないんだもん。15歳からは大人でしょ?

で、僕は旅立つことにした。北半球へ。雪が降るところへ。
サンタのイメージからフィンランドにしました。
たった一人でフィンランド旅行。
うん、なんだかもうすでに子どもじゃない気分だね。
プレゼントもらえなかったりして。
飛行機代だけで60万円かかっちゃった。

サンタさん、60万円に見合うだけのプレゼントたのむよ。

僕は結局お金がないので野宿することになる。野宿っていうか、雪宿!?
雪が降る中、外で眠るなんて、オーストラリア育ちの僕にはこたえるよ。
飛行機で30時間かかって、それから半日移動してるからもう12月24日の夜なんだよね。
クリスマスイヴの夜、いよいよサンタさんに会える!
僕は凍える夜の中で眠らないように眠らないようにがんばった。
サンタさんに会いたいから。
というか、死なないためでもあったりして。
でも僕はうっかり眠ってしまったのである。
僕はまだ子どもだった。

次の朝、僕の枕元には、といっても枕なんてないよ、雪の上!には、プレゼントがあった。
しっかりと、くつしたの中に入ってた。
僕はサンタクロースの物語に忠実に従って、枕元に、いや雪の上!にくつしたをおいておいたのでした。
おかげで僕の右足はカチンコチンに凍っていた!
さて、肝心のプレゼントですが、、、

ああ、僕はなんでサンタさんに欲しいものをお願いしなかったんだろう!
あれが欲しい、これが欲しいとあんな方法やこんな方法で伝えていればよかったのに!
サンタさんは僕にとって一番必要なものだと思ってプレゼントしたんだろうね。

オーストラリア行きのチケット。
いらねーよ!!!

でもたしかに60万円に見合うだけのプレゼント。。

若い欲望

街では凶暴化した人間が人間を襲い喰らうという猟奇的殺人事件が多発していた。

そんな中、青年は彼女を呼び出した。

「待った?」
「待ってないよ。行こう。」

こんなときにデート?と思われるかもしれない。でも、こんなときだからこそ彼女といたいのだ。
もしこのまま世界が終わったら、もう二度と、、

夜の公園を歩いた。そして外灯の届かない暗がりにさしかかったところで、青年は立ち止まり、彼女にキスをした。そして、押し倒した。

「ちょっと、、待ってよ、、」

青年は止まらない。彼女の下着を脱がすと強引に犯した。
青年もここしばらく何も口にしていなかった。空腹だった。
しかし、青年の中では食欲よりも性欲の方が勝っていた。
これぞ若さ!

青年は激しく腰を振る。初めてのセックスだった。これが本物の女の子かぁ。気持ちよかった。
しかしだんだん疲れてきた。腹減ったな。
青年の中で食欲が性欲を侵食し始める。

彼女、女の方は。女は快感を感じていた。突然のことに最初は戸惑ってしまったが、好きな人とだし、それに興味もあったし。そして、本当にとても気持ちよかったのだ。全身がヒクついた。
女の中では性欲が食欲を圧倒していた。

青年は止まった。

「ちょっとぉ、やめないでぇ、もっとしてぇ」

青年は女に口を近づけた。
女は「もっとぉ」と甘い声を出しながら青年に口づけようとした。
青年はその口をくわえた。そして噛みちぎった。

「いやああああああああ!!!!!」

女は唇のない口で悲鳴をあげた。そのグロテスクさ。
青年は吐きそうになった。そして本当に吐いた。
女の口元に唇が帰ってきた。ぐしゃぐしゃになった唇。

「くそったれ!」

女は罵声をあびせながら青年を逆に押し倒し、馬乗りになった。
そして青年の首を絞めた。しかし女の腰は動く。馬乗りになってセックスは続いている。
気持ちよかった。女の中では性欲が圧倒していた。

快感にあえぐ女。その口には唇がない。剥き出しの歯ぐきと歯。そのグロテスクさ。
青年は気絶した。それは極度の恐怖のためか、首を絞められたせいかはわからない。
青年のイチモツは急にしぼみ、抜けた。女は叫ぶ。

「この役立たずのくそったれ!」

女は青年を喰らう。やけ喰いである。血と肉の暴飲暴食。

数日後、女は友達に言われる。
「あんた、最近太ったんじゃない?」
「彼氏と別れたのよ!」

タイラント5

インドのとある山奥、古い寺院で一人の高僧が経を唱えている。
黄金の巨大な菩薩像を前に、そして十二の死体を背に。

敬虔なる仏教徒であった僧たちは人肉を喰わなかった。理性を失い殺し合うなんてことはしなかった。そして、飢えて死んだ。

若い十二人の弟子たちはみな死に、年老いた高僧だけが生き残った。
なぜ老いぼれのわしだけが、、と高僧は思った。それはただ単に新陳代謝の違いだったが、つまり若者はより多くの肉を必要としていたのだが、それだけでは割り切れないものがあった。順番が違うだろう、と。

高僧は弟子たちの遺体を埋めてやろうと思ったが、死んだ土は硬く、掘ることができなかった。死んだ世界では死者を弔ってやることもできないのか、、高僧はそれでも、死者を無事に黄泉へと送り届けるために、せめて菩薩の見守る前で、経を聞かせてやろうとしたのだ。

その高僧の飢餓感も限界だった。経を詠む高僧の身体は痩せ細っていた。肋骨からあばらにかけて肉が、いや皮が張りついていた。腹と背が文字通りくっついていた。縮小した胃がその間に挟まっているけれども。
強烈な飢餓感の中で、高僧はなかば狂ったように経を唱えていた。それは死んだ弟子たちを送るというよりもむしろ、自分自身を黄泉へと送り届けるための呪文のようでもあった。

高僧は戦っていたのだ。強烈な飢餓感の中で。後ろには肉がたんまりとあるのだ。この飢餓感を帳消しにして余りあるほどに。空っぽになった腹を満たして溢れるほどに。しかしそんなことは決してしてはならない。神聖なる菩薩様の前で、苦楽を共にしてきた弟子たちを喰らうなど、してはならないのだ!
おかしくなりそうな頭を必死に抑えて、いや、すでにおかしくなっているのだが、高僧は経を詠むことによって気を紛らわせようとしていた。湧き上がる食欲に身体が震えだす。それを抑えるように経を詠む声は大きくなる。
「南無阿弥陀仏!南無阿弥陀仏ぅ!!!」

菩薩像の前で、一人の高僧が、強烈な飢餓感の中で、腹を満たせるほどの肉を背に、暴走しそうな食欲を必死で禁じながら、経を唱えている。これぞ宗教のあるべき姿!
「南無阿弥陀仏っ!!南無阿弥陀仏ーーーぅぅぁ!!!!」

一人の山賊が山の中をさまよっていた。強烈な飢餓感の中で。肉はないか、肉はないか、と。そして、とある寺院をみつけた。

寺院は静かだった。物音ひとつしなかった。山賊の足音だけが聞こえた。
何もないのだろうか、そう思いつつ山賊は御堂に足を踏み入れた。
そこには十三体の肉があった。実際、山賊にとっては数などどうでもよかった。たんまりの肉。貪りついた。

ものの数分で三体の肉を喰らい尽くした。山賊の腹は満たされ、ここでやっと一息入れた。実際、息をするのも忘れてひたすら喰っていたのだった。ここで初めて山賊は御堂を見渡した。そして、そこには黄金の巨大な菩薩像があった。光り輝く眼差しで山賊を見下ろしていた。山賊は、涙を流した。

「おれぁ、仏教なんてこれまでちっとも信じてこなかったけんども、菩薩様ぁ、おれぁ、たった今からあんた様を心から信じますだぁ。」

そう言って山賊は目の前にあった高僧の肉を喰らいはじめた。。

タイラント4

兄さん、助けて!

クレアは狂った獣と化した人間たちが蠢く街の中をバイクで疾走していた。
一体のタイラントがバイクに飛びかかってきた。クレアはアクセルをふかし、タイラントを吹っ飛ばした。
ヘルメットに血が付着する。

くそったれ!もう、なんなのよ!

振り返ると、吹っ飛んだタイラントに数体のタイラントが群がっていた。そして一斉に喰らい始めた。すると一体のタイラントが別の一体のタイラントを押しやった。押しやられたタイラントは奇声をあげながら押しやったタイラントの頭に殴りかかった。殴られたタイラントの頭は180度周り、クレアの方を向いた。

もううんざり!

バイクは疾走する。警察署を目指して。

兄さん、助けて!

「妹?」
「そう、クレアっていうんだけど、家に帰ったらいなくて、もしかしたら俺を探しに警察署にむかってるんじゃないかと思って。すれ違いになっちゃったみたい。やっと警察署を抜け出して来たってのに、また戻るなんて最悪だよ。」
「警察署は、そんなにひどいの?」
「強力な武器持ったやつや、格闘技に秀でたやつらがみんなタイラントになって殺し合いしてるんだぜ?まるで地獄だったよ。命からがらさ。」
「そうなの、、」

ジルを乗せクリスが運転するパトカーが急に進路を逸らした。歩道をさまよっていた一体のタイラントを吹っ飛ばした。ブティックのショーウインドウに激突する直前にパトカーは急停止した。

ジルはクリスの足の上からブレーキを踏んでいた。
運命を変える銃はまたしても運命を変えたのだった。
窓ガラスに飛び散った血痕。
最後の一発だった。
しかしジルは新たな武器を手にしていた。ショットガン。

もう私は負けない。そして、、

数分後、パトカーは再び走り始めた。警察署を目指して。

パトカーが走り去った路上には、ボロボロになった警官制服と人骨だけが残されていた。

テーマ : 自作小説(ファンタジー)
ジャンル : 小説・文学

タイラント3

ドアを叩く音。ドンドン。
その音は次第に速く強くなっていく。ドンドンドンドンドン。
音が止まる。そして、強烈なドーン。ドアがきしむ。いや、家全体が大きく揺らいだ。
間をおいて、またしても強烈なドーン。ドアにカギはかかっていない。
三回目の強烈なドーンでドアはぶち破られた。父タイラントだ。

ジルはその姿を見て思った。これは人間ではない。この部屋のドアは外からは引いて開くのだ。それをこのタイラントは押し破ったのだ。
タイラントと化した父の体はひとまわり大きくなっていた。
それは母を喰らったためなのか、それとも恐怖心からそう見えているだけなのか、ジルにはわからなかった。

ジルは迷わず父タイラントを撃った。
銃弾は父タイラントの胸に当たった。心臓に当たった。
タイラントは自分の胸を見た。しかし何事もなかったかのように再びジルにむかってきた。
そんなバカな。
ジルはもう三発タイラントの心臓に銃弾をぶち込んだ。
タイラントは止まらない。胸の辺りから血が滴り落ちているのに。
タイラントは右腕を振り上げた。
ジルは直感した。死ぬと。
振り下ろされる右腕を見て思った。兄さん、ごめん。いや、右腕など見えていなかった。次々とあらわれるフラッシュバックを見ていた。

強烈な銃声。

ジルは我に返った。フラッシュバックから戻ってきた。
目の前には巨大なタイラントがいた。
その顔は、、その頭は吹き飛んでいた。
首から大量の血が吹き出しており、その血はジルにも降りかかった。
タイラントの身体が前のめりに倒れてきたので、ジルは横に飛びのいた。

「大丈夫かい?」
ドアの方を見ると、警官の制服を着た青年が立っていた。その手にはショットガンが握られていた。
「あなたは誰?」
「僕はクリス。銃声が聞こえたんで急いでこの部屋に駆けつけたんだ。」
「助けてくれてありがとう、、」

クリスは父タイラントのもとへしゃがみこんだ。
「なにするの?」
「食べるのさ。もったいないだろう?この世界にはもう食べ物がないんだから。」
「でも、、待って!、、それは私の父なの。母も含まれるわ。だから、、」
「そういうことか、、わかったよ。君に任せる。僕はここに来る途中で何体か食べてきてるから。食べ終わったら下に下りてきてくれ。待ってるから。」
そう言ってクリスは階下へ降りていった。

兄以外でこんな風に男の人と話すなんて初めて。ジルはそう思う間もなく父タイラントにかぶりついた。
父を喰らうのは兄を喰らう以上に罪悪感を感じた。しかし他人に喰われるのはまっぴらだった。それに、胃は求めていた。
ジルはタイラントの吹き飛んだ頭の肉片も含めてきれいに平らげた。

今、ジルは家族全員の命を背負ったのだった。
兄、父、母、みんなの血肉が体内に宿っている。
生命力が溢れてくる。みんなの分まで生きなければ。絶対に死ねない。

ふと思い出して机の一番上の引き出しを開けた。
カギの場所を忘れてしまったので強引に引き破った。
そして遺書をばらばらに引き裂いた。もうこんなものは必要ない。
舞い落ちる白い紙片は、この狭い部屋を出て行くジルの背中を祝福しているようだった。

テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

タイラント2

ジルはふとんの中でうずくまっていた。
何もかもが恐ろしかった。

ドアが開く音。

「お兄ちゃん?」

兄ではなかった。
姿かたちは兄だったが、その眼は人間のものではなかった。
荒い息づかいとともにゆっくりと近づいてくる。
よだれが床に落ちる。

ジルは銃を兄に向けた。
いや、兄タイラントに。

銃は本当は自分を撃つために所持していた。
度々その銃口をこめかみに当てていた。
何もかもが恐ろしかった。
遺書はずっと机の一番上の引き出しに鍵をかけてしまってあった。

銃声。

その銃弾は自分ではなく、兄を撃ち抜いた。
心臓を貫いた。
兄タイラントは倒れ、床に暗紅の血が広がった。

一発の銃弾は、兄だけでなく、同時にジルをも殺した。
一発の銃弾は、すべてを変えた。
生を死に、死を生に。

人間は死を意識したときに生を実感する。
だからこそ度々銃口をこめかみに向けたのかもしれない。
ジルは生に目覚めた。
兄を殺した罪を背負った以上、私は死ねない。

まだ終わりではない。

先ほどの階下での兄の叫び。
「母さん!父さん、なにやってるんだ!」

そして外での車の衝突、バイク事故。
人間を喰らう人間。

おぞましかった。
何もかもが恐ろしかった。
しかし、終わらせなければ。

ジルは銃を握り締め、階下の寝室へと歩き出した。
やらなければ、やられる。

部屋を出ようとしたそのとき、ジルは空腹を感じた。
突然の飢餓感。
ここしばらく何も口にしていないのだった。
食物はないのだ。

部屋でずっとうずくまっていたジルは、他の者よりは空腹感を感じていなかった。
しかしただいまの戦闘によって、急激に胃は目覚めたのだった。
飢餓感。
目の前には肉塊が転がっていた。
先ほどまでは生きていた肉が。

ジルは喰らった。
兄を。
人の肉を喰らうなんて嫌だ。
そんなことをするくらいなら死んだ方がましだ。
一瞬前まではそう思っていた。
一瞬後、一発の銃弾はすべてを変えていた。
どんなことをしてでも生きなければ。

骨だけを残し、あとはすべてきれいに平らげた。
床に広がった血も飲み干した。
これで私は兄とひとつになった。
罪を背負ったのだ。
罪を背負った人間は、その罪を償うために生きなければならない。
そう思っていた。

ジルは身体から溢れ出す生命力を感じていた。
私には兄がついている。
そしてこの、運命を変える銃が。

ジルは再び歩き出す。
運命を変えるために。。

テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

タイラント

誰もが死んだ。

動植物が死に絶え、、、

人間だけが残った。

食物がなかった。

人間は殺し合い、、

喰らい合った。

まさに――――

弱肉強食――――。


「父さん、なにやってるの?」

暗い部屋の中で父がなにかを貪り喰っていた。
父の背中越しに見えたのは、顔の半分が喰い散らかされた人間。
しかしそれは顔の残りの半分で母だとわかった。

「母さん!父さん、なにやってるんだ!」

父が振り返った。
その眼はもはや人間のものではなかった。
とてつもない恐怖を感じた。
そして、逃げ出した。

部屋を飛び出した。壁に激突した。痛がる間もなく廊下を走り出した。破裂しそうな心臓の激動が身体のバランスを狂わせているみたいに、身体はもつれ何度も転んだ。廊下がいつもよりもはるかに長く感じられた。ベルトコンベアの上を走ってるみたいに、走っても走っても進んでいないように感じた。

気づいたら家の外に出ていた。家を振り返った。そして気づいた。
家の中には妹がいる!
しかし中には獰猛なタイラントがいるのだ。
助けに行かなければ、、でも、、
正義感と恐怖感のせめぎ合い、、
心はそんなに強くはない。

甲高いブレーキ音、そして激突音。
左を向いた。隣の家の塀に車が激突していた。運転席のドアが開いた。
助手席に乗っている女が運転席の男の首筋に噛み付いていた。
男は女の頭を引き剥がそうとしていたが、その腕はすぐにだらりと垂れ下がった。

背後で女性の悲鳴が聞こえた。
振り返るとヤンキー風な女が逃げていた。
その後ろから走ってきた派手なバイクが女を派手に轢いた。
女の身体はまるで人形のように折れ曲がり、吹っ飛んだ。
バイクから降りてきた男は倒れた女に走りより、その胸に貪りついた。
男はおっぱいではなく、心臓を喰らおうとしていた。

みんな獰猛なタイラントだ。
恐怖が全身を支配する。
こうなったら、、

獰猛な父タイラントがいる家へ引き返した。
しかし、妹を助けるためではない。
喰らうためである。

正義感と恐怖感のせめぎ合い、、
心はそんなに強くはない。
みんな獰猛なタイラントだ。。

テーマ : ショート・ストーリー
ジャンル : 小説・文学

ニヤリ

ニヤリはネコ科の哺乳類。
足裏には肉球が発達し、音をたてずに歩く。夜行性で、瞳孔は円形から針状まで大きく変化する。長いひげは感覚器官の一つ。
古代エジプト以来神聖な動物とされる一方、魔性のものともされる。

笑いとは、楽しかったり、嬉しかったりなどを表現する人間特有の行動の一つ。

だから彼女のニヤリとした表情は、人間が使う意味での「ニヤリ」ではない。
しかし私は敬意を込めて、彼女を「ニヤリ」と呼んだ。

私は彼女の、顔の筋肉が弛緩し和やかな表情になる「ニヤリ」が大好きだった。
初めて道端でニヤリと出会ったとき以来、私はいつもニヤリと一緒にいる。
どこにいくときもニヤリと一緒。なにをするときでもニヤリと一緒。
ニヤリだけが私に微笑みかけてくれた。


ある日の散歩道、私は横断歩道の向こう側にいる一人の女の子に目がいった。
女の子は私に微笑みかけた。
誘われるように、私は横断歩道を渡った。
ニヤリもあとからついてきた。
私が横断歩道を渡りきったとき、背後でクラクションが鳴った。
振り向くと、大型トラックが走ってきていた。
あわててニヤリの方を向いた。
ニヤリはトラックの方を向いて固まっていた。
そして、私の方を向いてニヤリと笑った。
その刹那、トラックがニヤリをはねた。

トラックは走り去った。私はニヤリに駆け寄った。
ニヤリは死んでいた。もう表情はなくなっていた。沈黙。
もう二度とニヤリを見ることはできなかった。私はうなだれた。
そんな私を、女の子はそっと支えてくれた。

その女の子が、現在の私の妻だ。
彼女はいつも私にニヤリと微笑みかけてくれる。

もしかすると、ニヤリは私たちを結び付けてくれた、天使だったのかもしれない。。


笑み、、、顔の筋肉が弛緩し、リラックスした和やかな表情。
人間だけでなく、一部の動物も、極度に緊張した顔の筋肉をほぐすためにこのような表情になる。。

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

上と下


人間は二本足で立つようになった。
そして、上と下の概念が生まれた。


動物は四本足で這いつくばっているから、
上も下もない、みな平等だ。

しかし、人間は二本足で立つから、
上と下がある。

上にいる者、下にいる者。
上流社会と下流社会。


上と下、それは天国と地獄。
上下の概念は、幸と不幸を生み出した。

四本足で這いつくばっている動物たちは、
幸も不幸もなく、ただただ平和に生きている。

しかし、人間には上下があるから、幸と不幸があるから、
苦しい。


若者は、力に溢れた若者は、幸せを求めて立ち上がる。
少しでも上に、幸せになりたいと欲望する。

しかし、力のない者、老いぼれた者や希望を失った者は、
立つ気力を失い、這いつくばる、横たわる。

競争に疲れた身体は、平等を求めて、平穏を求めて、這いつくばる。
しかし、二本足で立つ者、上にいる者が容赦なく、踏みつける。

安息の地は、ない。




ベッドの上ではみな平等よ。

金持ちも、貧しい者も、
ベッドの上では誰もがただの動物。

誰もが気持ちよくなる権利をもってる。


そう言って女は男に甘く口づけた。
大人のキス。


だから、人間はセックスするのか。

安息を求めて。


男と女はベッドに倒れこんだ。

安息の地へ。。

テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

54notall

Author:54notall
横浜国立大学マルチメディア文化課程。
爆笑問題太田さん、ダウンタウン松本さん、B'z稲葉さん、ラルクHYDEさん、椎名林檎さん、マイクル・クライトン、、に強く影響を受けています。
メインブログ54のパラレルワールド

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