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風呂場

一人暮らしをやっていると、部屋がどんどん汚くなっていく。はじめのうちは掃除をしていたものだが、いつからかまったくしなくなり、今や私の家はごみ屋敷である。
風呂場にカビが生えてきて以来私は風呂に入っていない。そのかわり1週間に1度銭湯に行くのが習慣になった。カビだらけの風呂場はそんなわけでずっと封印されていたのだが、ひょんなことから開けることになった。

深夜、(ちゃぷん、ちゃぷん)という水の音に起こされた。その音は浴槽で子どもが遊んでいるように聞こえた。(ちゃぷん、ちゃぷん)。両隣の部屋に風呂はついていないので、その音は私の部屋の風呂場からのものであるに違いなかった。しかし誰が・・・。(ちゃぷん、ちゃぷん)。風呂場の戸の前に立った。戸の向こうでは(ちゃぷん、ちゃぷん)という音。子どもの笑い声さえ聞こえてきそうだった。夜闇の中、私は恐怖で震えていた。子どもの幽霊が私を呪い殺そうと誘っているのではないか。貞子や伽耶子が襲ってくるのではないか。いやいや幽霊なんてナンセンスだ。そんなのいるわけない。私が信じるのは科学だけだ。私は込み上げる恐怖を押し殺し、勇気を持って風呂場の戸を開けた。

風呂場の戸を開けてみると、浴槽でサメが泳いでいた。私は驚愕した。さっきまでの非科学的な恐怖から、動物的な本能的な恐怖が襲ってきた。サメと私の目がチラッと合った。その刹那、瞬発的な恐ろしさで鋭利な歯を剥き出しながらサメは飛びかかってきた。その目は血走り、見るものをすべて喰い殺してしまいそうだった。私はとっさに飛び退いて風呂場の戸を閉めた。戸をガンガン叩き、あるいは戸をぶち破って襲ってきそうな恐ろしさがそこにはあった。上昇する心拍数を抑えながら、私は努めて冷静になろうとした。
私は考えた。一体何故風呂場にサメが?

数ヶ月前、私は友人の結婚式に呼ばれ、おみやげにキャビアをもらった。キャビアなんて高級なものもったいないから持って帰っていいかとせがんだのだ。帰宅してから意気揚々とキャビアを口にしたのだが、思いのほか口に合わなかった。マズかった。がっかりしてキャビアを流しに捨てたのだ。
もしかすると流しに捨てたはずのキャビアが何かの拍子に風呂場に入ってしまい、水を張ったままの浴槽で孵化してしまったのではないだろうか。あるいは、流しで孵化したサメが水を求めて浴槽へ跳ねていったのではないだろうか。カビだらけだといって風呂場を封印していたために私はそのことにずっと気づかなかったのだ。その間にサメは成長し、エサを与えられないサメは怒り狂い、私を見るなり襲いかかってきた。今あのサメは腹減りのためにひどく凶暴化していて、とても危険な状態にある。

戸をぶち破りそうな勢いと恐怖を感じた私であったが、戸の向こうがあまりに静かだったので、私は戸を開けてみた。すると、さっきは血走った目で私に飛びかかってきたサメが今や息も絶え絶えに視線が宙をさまよっている。私はハッと気づいた。このサメは生まれてから今まで何も口にしていない。いつ死んでもおかしくない状態なのだ。親から授かった命であったが、キャビアとして売られ、生まれる前から食べられてしまう運命にあった。しかも、おいしく食べられるならまだしも、マズいと言われ流しに捨てられたとあっては。なんてかわいそうなサメなんだろうと思った私は、冷蔵庫にあった鮭や牛肉を食べさせてやった。鮭を食べているその目には、心なしか涙が浮かんでいるようだった。
少しは元気を取り戻したのか、浴槽に戻してやると再び泳ぎ始めた。ときどき水面に顔を出してはこちらにうなづくような仕草をする。私になついてくれたのだろうか。ひょんなことから出会ったサメであったが、どこか愛しく思っている私がそこにいた。

その日から、風呂場はサメ水槽となり、私は「ジョナさん」にエサあげるために毎日風呂場を開けるようになった。。
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テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:54notall
横浜国立大学マルチメディア文化課程。
爆笑問題太田さん、ダウンタウン松本さん、B'z稲葉さん、ラルクHYDEさん、椎名林檎さん、マイクル・クライトン、、に強く影響を受けています。
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